Dear 鶴瓶師匠

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最近知ったのだけれど、私の周りの女性達の鶴瓶師匠ファンの多さよ。もちろん私も含めて。

で、朝起きて「そうだ」と思い立って新宿に『Dear Doctor』の初回を観に行った。
旅に行く前に観ておかねばいけない気がしていたのだ。新宿での上映は武蔵野館。『ゆれる』を観たのと同じ場所だった。狭いしスクリーンは小さいんだけど、上映前に流れるCMがまた古くさくて何だか良いのである。
「ゆれる」に比べると年配の方(しかも男性)が多くて、明らかに客層が違って見えた。主演の鶴瓶師匠の影響か。舞台が医療の現場故か。直木賞候補のせいかもしれない。とにかく朝っぱらから場内はほぼ満席であった。
10分で化粧をし家を出たので、整理番号8番を奪取。悠々と私が一番好きな最後列の右端に座れたし、売店で原作本「きのうの神さま」の最後の一冊も買えた。

結論から言えば、「ゆれる」に感じた、あの客席で観ているこちらまでもが、身をえぐられる様な気持ちにはならないまでも、それが作品として何か劣っているという事では決してなく、普段は見過ごしがちな人の内側のちょっとした歪みや、それにより生じる滑稽さや、弱さ、愛しさを十分に描いた良い作品だった。この所低下の一途を辿る私の涙腺は相当アテに出来ないとはいえ、まー泣きました。物語にというよりは、瞬間瞬間にスクリーンに映し出される登場人物達の心の機微の様なものに、ヨヨヨといちいち泣きました。
さすが西川監督。全く憎らしいほどの細心。言葉の選び方や演出、映像の一つ一つに最後まで唸ってばかりだった。

「ゆれる」同様、あまりにもリアルに描き出された「田舎」には、本当に感服。私は西川さんの描く「田舎」が大好きだ。いや大嫌いだけれど、妙な誤魔化しや美化がないから大好き。ただ田んぼと山と古民家を映しゃあ田舎になるなんて大間違いなのだ。そこは温かくて冷ややかで、広大で狭小で、空気が美味く息苦しい場所。冒頭の診療所の場面での患者達、思わず笑ってしまったけれど(笑ってはいけないか)、私が知る田舎町の病院の風景そのものだった。

「ゆれる」には無かった所々生まれる「笑い」は、やはりひとえに主演の鶴瓶師匠の力だろう。肩に力が入ってしまうほど緊迫した場面でも何故だか笑えてしまうのはあの特異なキャラクターの成せる技。これは仕方ないと思うのだけれど、最初、スクリーンの中に居たのははやはり「鶴瓶師匠」だった訳です。しかし途中からどんどん「伊野」という男にしか見えなくなる。そのだらしのない立ち姿が、背中が、声が、どこまでも空虚な雰囲気を作り出していてたまらない。あの「あきらめ」の香り。「泣き笑い」がそのまま白衣を着て歩いている様だった。これ、「ゆれる」に出演していたピエール瀧にも通ずる所がある様に思う。

それと特筆すべきは余貴美子と香川照之。この二人の役者さんと、その演じた役柄がとても魅力的。西川作品では役者さんがとても自然に言葉を発し、動いている様に見えるけれど、二人の細かな表情はとても演技とは思えなかった。この二人がいなければ物語に深みががなくなってしまうというくらい重要な役柄だけれど、そもそも二人が居るという事が、二人を真摯に描いている所が、西川さんならではという感じがした。

あと村長役の笹野高史。私はこれまでこの役者さんをイイと思った事が殆どないのだが、「ゆれる」では河原さぶ演じる親戚のオッサンがダントツでリアルだったのに対し、今作ではダントツに素晴らしい田舎のオッサンを演じていた。松重・岩松の「転々」コンビも良かった。岩松さんはどこで何してても岩松さんでホッとする。あと一応書いておくと、瑛太はずっと苦手なのだけれど、やはり今回も苦手ではあったものの、今まで観た中では一番良かったと思う。ただ髪型はどーなんだろうか。いいのか。いいのか?

ラストは正直いいのか悪いのかわからない。「ゆれる」もそうだった。でもいいのだと思う。あれで。八千草薫も笑っていたし。

パンフレットに掲載されていた西川さんの
「何かになりすまして生きているという感覚は誰しもが持っていて、それで世の中が成り立っている」
という言葉が何しろ心を突いてきた。肩書きなど、そう名乗れば、或いは誰かにそう呼ばれれば決まるもの。母も父も子も妻も夫も嫁も姑も先生も生徒も。誰かが一抜けた、としないだけで何とか世界が動いている。一抜けた、としないのは、殆ど惰性だろうと思うと、ああ何と危うい世界、と思うけれど、かといってその惰性が「悪」かというとそうとも言い切れない。むしろ愛しいものにも感じる。そんな曖昧な部分を細かく描き切り、提示してくれる西川監督はやはり凄い。そして同時にやっぱり怖くもある。しかも西川監督は文章も素晴らしいので(美人である上に。全く嫌になりますね。)、これから原作本を読むのも楽みだ。

ブラボー鶴瓶師匠。
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話は違うが、土曜日に植えたばかりの種が、たった二日で実にあっさりと昨日発芽。発芽って、まだかなーまだかなーって待つもんじゃなかったか。種すごい。
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〜追記〜
考えてたんですが、「ゆれる」も「ディア・ドクター」も両作品に共通するのは、その物語に生きている人達が、
今もなお、この世のどこかで生活をしているという、変な実感を持ち続けられる事だと思います。
ああ今頃、あの人は元気でやっているのだろうか、上手く生きていけているだろうかとか、思えてしまう所。
それが西川作品の魅力というか、凄いところです。人物に奥行きがあるのです。

と、イラストがなんかおっかしいなあと思ったらスペル間違ってたよ。ひー。修正修正。
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by sakamotochiaki | 2009-07-07 17:18 | ◎こんな日々 | Comments(0)