嬉しすぎる夜

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ああ、あの時死なずに今日まで生きてきて良かった!と思えた夜だった。
九死に一生を得た経験も無いくせに。死ぬ程の困難に見舞われた事も、悩みを抱えた事もないけれど。
そんな温い日々を送り続ける私であるが、素晴らしいパフォーマンスを見せつけられると、大げさでなくそう思ってしまう。
まだこんな風に、感動できる余白を自分が持ち合わせていた事にも驚いたし、そんな自分の傲慢さをいともたやすく打ち砕いてくれたZAZEN BOYSと立川志らくにも驚いた。本当に驚いたのだ。いやいや、まだまだ、新しい表現(厳密に言うと、ただ「新しい」のとは違うのだけれど)というのはあるんである。それを知った事が何しろ嬉しかった。嬉しくて泣けた。

例えばそれは、10代の時、初めて大好きなバンドのライブを生で観た時の様な「何だこれは!」感。「チクショウ大人め!こんな面白いもの観てやがったのか!」感。そして上京後、ずっと観てみたかった劇団の舞台を、初めて生で観た時の様な「チクショウ東京め!」感。それをスワッと思い出して、胸が熱くなった。別にこういう感覚を、もう二度と味わう事もないだろうと、常日頃諦め暮らしていた訳ではないけれど、昨夜の様な「何だこれは!」という状況におかれた瞬間、自分が漫然と諦めの中にいた事を教えられた気がした。それは悔しくも嬉しい事なのだった。

内容について書くのは非常に難しい。
会場に行くまで、いや実際にライブが始まってからも、いったいこの後どういう事になるのかわからなままに、どんどん「演目」は進んで行った。いつもと違うのは、舞台右端に「ザゼンボーイズ」と書かれた「メクリ」(寄席で出演者の名前が書かれているやつですね)が置かれているという事。
しかし文句なしにライブは素晴らしく、ZAZEN初のオールシッティングを強いられた観客は、律儀に椅子に体を預け、それでも取れないリズムを頭で、肩で、足で、ナニで、各々がウズウズカクカクと刻むという光景もまた、完全にS(向井)とM(観客)の関係を築いている様で、凄く面白かった。もちろん私もウズカクの一員。

途中、ステージ後方から照らされたライトの効果で、ホール左右の壁にメンバーの影が大きく映し出される場面があったのだけれど、それがもー最高に美しくて、こんなにシンプルで効果絶大な演出法があるのだなと、その光景がまるで夢の中の様で、頭が少しボーッとした。そんな風にライブ中、不思議と意識も朦朧とするのだった。椅子に座っているせいか、爆音と変速リズムと四つ打ちリズムが、妙に心地よい。けれど目は次にどうなるか、それを見逃すまじと、ステージに集中出来ているという不思議。

予め「本日の演目」が配られていたせいかZAZENラストの曲「アソビ」が流れ出した時、観客の「いよいよか」という空気がわかった。いったいどうやって、このZAZEN100%の空間から、そこへ行こうというのか、その時点でも全くわからなかったのだ。「そこ」とは立川志らくの落語の事であるが、わからなすぎてちょっと不安を覚えたほど。が、そんな不安はすぐ消えた。とかいいながら、ちょっと不安がってみたのだけなのだ私は。向井秀徳がやろうというのだから、それは「大丈夫」で、そして「面白い」に違いないのだから。全く、それが私というやつだ。

「アソビ」の曲の途中、ステージに白いスクリーンが下ろされ、そこにまたZAZENメンバー4人のシルエットが映し出された。言うまでもなく、素晴らしい光景。するとそこの端っこから向井1人だけ、ひょっこりと(ホント、ひょっこりと)ステージに現れる。そしてステージ袖から黒子に押されて登場する座布団の乗った赤い高座を、バックオーライよろしく誘導し始める。ステージ中央に高座設置完了後、右脇にあった「メクリ」をくるりとめくる向井。現れた「立川志らく」の名に俄然観客が沸き上がる。そこにビッグマンマラカスを振りながらの志らく登場。いやがおうにも場の盛り上がは最高潮。その流れの素晴らしさ。影絵もそうだが、こんなにシンプルで効果的絶大な演出があるだろうか。

さらに素晴らしいのは志らく落語の世界であった。長々と続いたライブの後、あんなやりづらい事もないのではと思われたが、逆にすっかり温まった観客は、一瞬にしてその世界へ巻き込まれた。ちなみに枕(というのでしょうか)は「のりぴー」ネタ(そらもー歯に衣着せぬ)で爆笑。噺が始まってからは、もう圧巻としか言いようが無かった。それはZAZENと志らくという2組が一見全く違う様でいて、根底で繋がっているという事の証明でもある様に思えた。

演目は「らくだ」。「向井が「いい」と言った噺」だそうで、これをキッカケに向井からのオファーにより実現したセッションだそうである。冒頭には「こんな事を考える向井秀徳はキチガイです。それを二つ返事でお受けする私も私ですが」という様な事を言っていた志らく師匠。確かにちょっとキチガイ沙汰と思えるこのセッション、それ観たいと集まった人々も相当なものだと思えた。
実は坂本、これが落語デビューでもあったのだけれど、これを正式なデビューと言っていいのかはよくわからないが、いや、本当に面白かった。これまでも寄席に落語を観に行ってみたいと思っていたものの、これを機会に行かねば、に変わった。行かねば。

そしてアンコールに応えて再び登場したメンバーは、限定グッズであるZAZENメンバーと志らく師匠の顔写真入りTシャツ姿であった。それぞれが色違いを着ている姿が、ちょっとドリフターズ的で、私的にはかなりツボにハマッたのだけれど、そこで突如スタンドマイク1本で始まった、楽器を待たず(つまりそれぞれがそれぞれのパートを口や体を使って演奏する)の一曲が、もー最高。向井が「ジャーン!」とギターの音を真似る度に、吉田一郎君の動きに、観客は大爆笑。先に書いた様に、見た目がドリフの様だし、やってる事も可笑しすぎるし、ともすればこんなカッコ悪い事はないのであるが、最高に、最高潮にカッコイイのであった。
カッコ悪いをカッコイイに転じられる事ほど、強いものはない。だから観客は、お腹を抱えて、涙まで流して笑えるのに、同時に惚れ惚れとしてしまうのである。カッコ良すぎるよZAZEN。

昨日ご一緒したのは山田美容室の山田さんであったのだけれど、彼女とはもう20年来の友人で、出会った当初はまだ2人とも恐ろしい事に痛々しい18歳で、ライブや芝居をよく一緒に観に行って、それこそその楽しさにズッポリとハマり切った時代だった。
昨日のライブ後、開口一番に「映画を撮りたいと言っているのがわかった。ぜひ撮って欲しい」という彼女と、全く同じ事を思っていた私は驚いて、同時に納得する。ミュージシャンが音楽以外の事に手を広げても、大抵はろくな事にならないと思うけれど、総指揮者としての才能を見せつけられた今、向井ならば間違いはない、と思えたのだ私も彼女も。
そういう彼女と一緒だったというのも、この何もかも「初めて」の様な感動に繋がった様な気がした。全てが、真っ白になる様な、そんな気分だった。

ああ、しばらくはこの余韻で暮らしてしまいそうである。余韻を肴にお酒が飲めてしまう。嬉しい。凄く嬉しい。やっぱり向井という人は、私にとって希望の光だ。陳腐と思われても、同じ日本人で、同じ言葉や、同じ土壌(厳密には違っても)を共有しているという事を、自分勝手に嬉しく思わずにはいられない。これが若い時はただ嫉妬心でいっぱいだったかもしれないけれど、今はとにかく嬉しい。嬉しくて気が違いそう。


限定グッズのTシャツもポスターも、凄い列で買うのを諦めたので、この演目表が家宝。
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アソビ


今やイントロで条件反射的に泣ける サバク(音だけですが)





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by sakamotochiaki | 2009-09-11 15:31 | ◎こんな日々 | Comments(4)
Commented by kyoe_noriko at 2009-09-12 11:57
わあい!
落語の世界へようこそー!
落語は同じ話でも噺家さんでも全然印象が変わって奥が深い世界ですよ。私はまだ全然そこまでたどり着けてないんですがね。

ライブと落語、って組み合わせをこなしてしまうって両者すごいですね。そういう異色コラボって両方の才能があってのことだし、それできっと更なる高みになっちゃうんでしょうね。おおー鳥肌立ちそう。
Commented by sakamotochiaki at 2009-09-12 12:19
キョウエさん
おー、落語先輩がここにも。
興味があっても、なかなかいきなり1人では行きづらいと思えて、
今日まで来てしまいました。
大学の恩師からも1日寄席に居て、
どうしようもないものから最後、真打ちの高座まで見るのが凄く楽しいのだ、と聞いて、いつかやろうやろうと思いつつ。
何かオススメがあったらぜひ教えて下さい。

ザゼンと志らく師匠のセッションは、本当にゴリゴリの一騎打ちという感じで、女人禁制的世界で、私なんかがいて申し訳ない気持ちになった程。
そういう意味では、両者とも間違いなくロックでした。
Commented by kyoe_noriko at 2009-09-12 12:46
うちもそれほど沢山聴いている訳じゃないんですけど、志の輔が好きです。志の輔はちょっと一人芝居風なところがあるので、好みが分かれるとは思いますが。(うちイッセー尾形が好きなんですけど、その落語版みたいな感じなんですよ。乱暴な言い方をすると)
私の友人も、寄席でずっと見ているのが好きだという子が居ます。一度新宿とか行きたいんですけどね。私も一人だと行きそびれちゃって。
私中学のとき、何を間違えたか落研に一年居たんですよ。それではまりました(笑)。
Commented by sakamotochiaki at 2009-09-12 13:17
落研!それは凄い。
イッセーさんは、随分前よく観に行きました。
女性役をやる様になってから、少し遠のいてしまったんですが(笑)
バーテンダー姿とかの方が、個人的に好きで。
「駐車場」という芝居(これは生では観てないんですが)、
もー本当に好きでした。
「告白」「ほっかほか家族」(だったか?)も、いまだにどっかにビデオがあるはず。ああ久々に見たくなりました。
そういえば、昨夜も午前3時直前に楳に起こされて、見事に鶴瓶の「スジナシ」を観ることが出来たんですが、イッセーさんがゲストの回もあったようで、それが素晴らしかったと評判(そりゃそうに違いない)、絶対DVDを入手しようと思います。
鶴瓶落語も見たいし。

話を戻して、志の輔さんは大人気ですよね。
確かに一度見てみたいなあ。
あと寄席の演芸とか、ダラダラ見たいです。手品とかね。