受け止める 『Peace』

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帰省前に仕上げなければならなかった色々を終えたので、映画『Peace』を観るために夫婦でイメージフォーラムへ。

見かけるレビューや予告編などから、あの『選挙』、『精神』の想田和弘監督が今度は猫映画?!と驚かれている方もおられるかもしれない。確かに猫(悶絶級にブサカワイイ)は沢山登場するし、猫好きの私的には実際ヨダレものの場面は多々あれど、これはれっきとした「人」を描いた、或は「生きるということ」「死ぬということ」を描いた作品であると私は思う。
舞台である岡山県には縁もゆかりも無い私であるが、目に飛び込んでくる風景、人、繰り広げられる会話の1つ1つが、いちいち自分の田舎の記憶と勝手に結びつくものだから匂い立つほどの既視感を覚え、それだけでもギューッと胸を締め付けられてたまらない気持ちになった。結果的に冒頭(黄色いヘルメットの彼が登場したあたり)から笑いながら涙腺崩壊という竹中直人にも引けを取らない分裂ぶりであったが、そのまま自分でもよくわからない制御不能の涙が次々溢れ出してエンドロールを迎えるという結果。我ながらそんなつもりもなく映画館に出向いていたので自分で自分に驚いた。
今作の中心人物である想田監督の義父母・柏木ご夫妻のボランティア活動に同行している様な気持ちで観ていると、田舎では昔も今も当たり前に存在する小さな小さな差別や孤立、その中でギリギリ保たれる人間関係が垣間見えてくる。そしてそういう場所からもう長いこと離れて暮らし、目を背けて続けてきた自分への後ろめたさもあり、決して大袈裟ではなく淡々と映し出される「現実」を前に、私はただどうしようもなく泣いたのかもしれない。

それにつけてもまともに聴くのは初めてだった岡山弁の耳触りの心地良さよ。柏木ご夫妻のお人柄もあろうけれど、あの響きの優しさにも心打たれた。映画は一応字幕付きではあるけれど、目でというよりはちゃんと耳で聞きたい言葉。いつもエサをあげている野良猫達からつまはじきにあっていた1匹、通称・泥棒猫にも優しい柏木さんの「エサだけやりょんです」とかもーたまりません。いつの間にやら順番に淘汰されていく猫という不思議な生き物の諸行無常さをも当たり前に受け止めておられる姿も。そう、今作を観ていて「受け止める」という事も強く感じた。その対象は様々で、「他者」であったり「環境」であったり「死」であったり。

話は少し飛ぶが、昨日俳優の原田芳雄さんが亡くなった。最後の出演作となった映画『大鹿村騒動記』の舞台挨拶に現れたその姿にショックを受けられた方も少なくないだろう。私もそのうちの1人である。ほんの少し前にテレビ番組で元気そうな姿を拝見したばかりだったので、その姿の変貌ぶりには余計衝撃を受けたが、それ以上に何か「死」を覚悟した人の姿というものを目の当たりにした様な気持ちになって、その絶対的に侵し難い「尊厳」というものを前に、頭を思い切り殴られた様な感覚の方が強かった。
『Peace』に登場する独居老人橋本さんの姿にも、全く同じものを感じた。周囲に迷惑をかけて生きるという事を気にし続けていた橋本さんが、突如前触れも無くとうとうと語り出した戦争の話。生き残ったという事への罪悪感を背負いながら、それでも生き続けた人の姿や言葉には、ただ息をのみ耳を傾けるほか無く、まばたきすら出来なかった。今思い出しても鼻の奥がツンと痛くなるほど。想田監督ご自身が出演されたラジオ番組で話されていたけれど、たった3日だけだったという橋本さんの撮影日程の中で、そのまさに最終日に(ご本人は無意識だったかもしれないが)とらえられたこの場面。語り始めた橋本さんは何かに導かれている様にも見え、そんな現場に居合わせるというまさに奇跡の様な現場を想像してウワッと鳥肌が立った。(ちなみにこの「奇跡」は75分の間にあちこちで起こっちゃうのがまた凄いのであった)スクリーンを通してではあるけれど、その瞬間を共有させてもらえたというのは、私なんかが良いのでしょうかという様な何とも複雑な気持ちながらも、とてもとてもかけがえの無い事だった。縁もゆかりも無い私ですが、橋本さん、あなたの言葉は受け止めました。
改めてドキュメンタリーって凄い!と痛感させられ、映画館を出た後しばらく経っても夫と熱く語り合い、その後初めて行った「もうやんカレー」の味の記憶も曖昧。今後もことあるごとに語り続けてしまいそう。
そんな訳で猫好きだろうとなかろうと『Peace』は観ておくべし!です!

帰宅後、想田監督の著書『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』を読み始めた。冒頭からいきなり面白い!当然ながら私は映画作りに関して全く無知であるけれど、自分の作品を作る上で心にぶっ刺さる言葉が次々と出てくる。帰省の道中、じっくり繰り返し読もう。



※イラストの泥棒猫はどことなく楳に似ていた。洗ってあげたらグレーの毛が真っ白になりそうだったなあ。
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by sakamotochiaki | 2011-07-20 22:31 | ◎こんな日々 | Comments(2)
Commented by ホホホ at 2011-07-21 01:02 x
観るね。
Commented by sakamotochiaki at 2011-07-21 08:31
ホホホ様
わーぜひぜひ!ホントに貴重な映画だと思います。