あの娘だけの汗まみれのスター

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『家庭教師』というアルバムを手に入れてからちょうど17年かかってしまった。

大槻ケンヂのオールナイトニッポンのヘビイリスナーであった私的には、それまではどちらかと言えば茶化しの存在であり、ライブで紫のブリーフを披露するとか、MCのナルシストぶりが凄いとか、ライブに集うファンは皆、何かちょっとずつ変なんだよ、とかかっこうのネタとされていたせいで、当時田舎の高校生だった事もあり、そのやけに鋭角な角度から攻めた言葉を(まあオーケンならではの変化求愛だったのだろうが)見事に真に受けて「へー、んだのか、気持ちわりいな」くらいに思っていたのだった。
まあその後上京し、『家庭教師』というアルバムを初めて真っ向から聴く事により、全てはあっさりひっくり返り、「気持ちわりい」も丸ごとひっくるめて魅力に転じたのだが。最初印象が悪かったものでも、何かのキッカケで好きになってしまった時ほど強力なものは無い。ダメな男であればあるほど、そのダメさを知れば知るほどのめり込むタチの悪い女の様に。
とにかくそれ以降、茶化しなどではなく、心からの親愛を込めて「岡村ちゃん」と呼ぶ様になった。

そこから17年。えらく長い時間がかかったものだ。
いや、その間も何度もライブに行ける機会はあったと思うけれど、そのうち観る事になるだろうと何となく思っていて、彼の容姿の変貌に驚き、「あちゃー」と憂いながらも、それでもまだ悠長に構えていたら、ある日突然彼は塀の向こうに行ってしまった。
人はゲンキンなもので「もうダメよ」と取り上げられると無性に惜しくなる。私もそこで初めて、ああ、もう彼の姿はこの目で観られないかもしれないと悟ったのだった。いつでもあると思うな親と金、そして好きなミュージシャン。そんな上手いこと考えてる自分のアホさにガッカリして深く深く後悔した。


して昨夜は東京2DAYSの最終日。
前日までは何という事もなかったのだけれど、会場に向かう道すがら『家庭教師』を聴いていたら、どんどん実感が沸いてきて、予想外に緊張してきて、東京テレポートに着いたら既に鼻血が出そうになっている自分に危険を感じ、慌ててペペカリフォルニアの『Goodbye Fruity World』でクールダウン。(「無機質な都会」って感じの夜の観覧車やヴィーナスフォートとか、合うのよね。)
アホみたいだが、初めて芸能人を観に行く様な高揚感があった。こういうのって、やはり溜めた時間に比例するのだろうか。
入場してからはさらなるクールダウンを計り♪ビールを一気に流し込みぃ〜(逆だろ)、筋金入りのファンの方々の中に入り込むのも恐縮したけれど、日頃オールスタイディング慣れしているので体力には自身ありの私はステージ中央前方ブロックに陣取った。

いやー、長かった。出てくるまで。
しかし出て来てからは本当に一瞬だった。アンコールも入れたら3部構成という長さだったのに。
岡村ちゃんは大分体重をしぼった様子で(まあ、あれだけ踊っていれば痩せるだろうけれど)一時の葉加瀬太郎シルエットからは脱出していた。先日のフジの深夜番組出演時よりも一段と痩せていた様にも見え、顔だけ見ていると全盛期の様。最近出たシングルのやけにスマート岡村ちゃんジャケ写に比べたら、見事なリバウンドと言えるかもしれないが、そもそもあの写真の方がアヤシイと思っていたので、それほどのショックは受けず。
カッコいいんだか悪いんだか、いやでもやっぱカッコいい独特のダンスも絶好調で片手で(!)そく転まで披露したのには驚いた。あの体型であんなに踊れる人はいない。あ、パパイヤ鈴木がいたか。
けれど、ここ最近のライブのリポートなどを読んでいて、気になっていた「声」が、後半は持ち直しむしろ伸びていたけれど、前半は高音がほぼ全滅だった。前日の疲労があるとはいえ、心底悲しい気持ちになった。

「あんなに伸びやかに歌えていた人が、一度でもとどまってしまうと、
 こういう事になってしまうんだ。」

という現実を見せつけられた気がした。間に入るMCもバンドのメンバーに任せ(これが結構ダルかった)、自分は後方で休憩を取っていたりもしたし、声量とか、音域とか、体力とか、失われたものを取り戻すって、こんなに大変な事なのだという事を知った。
それでも、彼が歌えない部分を観客が歌い、会場全体でフォローする場面では、岡村ちゃんならずとも泣けた。私なんか足下に及ばぬくらい、彼を待っていた人達がいるのだ。という事もわかった。
一曲目から名曲『どぉなっちゃってんだよ』だったのだけれど、一瞬何の曲かわからないくらいアレンジが大幅に変えられていて、少々残念な気分ではもあったものの、『ステップUP↑』(この曲も歌詞が秀逸)の中の


 冗談じゃねぇぜだってそうじゃんマンスリーで人生はステップアップするもの
 こんなんなった僕が言うんだ 信用しよう


という部分、今の岡村ちゃんが歌うと本当に沁みた。マンスリーどころか、彼は今、日に日に変わっているの違いない。そういう覚悟にも聞こえた。

そして、私が何が何でも聴きたかった曲、これを聴けたら思い残す事は無いと思っていた曲、イントロでギターをかき鳴らす岡村ちゃんを見た瞬間、顔面滝状態。相当に悲惨な顔になっていたと思うが、マイナスイオン大放出だったと思うが、止められなかった、涙が。自分が思っていた以上に、この曲が好きだった事がわかった。それに自分でも驚いた。本当にこんなにキラキラした曲は他に無い。


『あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう』

 あともう15秒で このままじゃ35連敗
 ぼくの胸のドラムがヘビメタを熱演している
 汗で滑るバッシュー まるで謡うイルカみたいだ
 あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう


冒頭のこの部分だけで、17年前の私の心は泣いたのだった。別にバスケ部だった訳でも何でも無いのに、泣けたのだった。
時間こそ随分経っているけれど、見た目や、声や、環境も変わって入るけれど、やはりとてつもない才能の持ち主なのだ、彼は。それをまた無駄にする事だけはしないで欲しい。いきなり消えるって事もしないで欲しい。数年前に出演していたテレビ番組で語っていた彼を見て知ったナルシストでもなんでもない、人一倍のコンプレックスと自信の無さ、弱さを思うと、それは簡単な事では無いと思うけれど、歌い続けて欲しい。心から思った。

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※イラストは足腰は大丈夫だったのだけれど、ステージを見上げ過ぎて首痛の図。
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by sakamotochiaki | 2007-11-10 00:54 | ◎こんな日々 | Comments(0)