2008年 04月 04日
奥深きは版画の世界 |
昨日は版画工房引きこもり日。
海外のコンペやら、版画協会出品やら、諸々一段落しているのか、午前中は空席も目立つゆるい雰囲気。そんな中、毎回しゃべくり倒してばかりいるオッサンの、昨日の集中力は凄かった。いや、昨日もしゃべくり倒してはいたのだけれど、徹夜して十枚以上作っていたという銅版画を、どんどん刷って行く。それがどれもこれも素晴らしい。さすが芸大卒(小耳にはさみ情報)。二言目には
「もうオレなんか、お迎え待ってるだけだかんよー」発言が飛び出しつつも、
「コレ(もう2ヶ月費やしている銅版画作品)に命かけてっかんよー」
「あ!肝心の版、置いて来ちゃったよ。
(山梨在住なので取りには戻れない)あーアレに命かけてたのによー」
と、やたらと命を気にかけるお年頃。切実だ。うちの母の様だ。たぶん同年代だろう。
して、昨日の私はダメだった。持参した版を刷ってみたはいいけれど、
「これ、版画にする意義って、何だ?」
という部分に立ち返ってしまい、いやいやいやでもでもでもまあまあまあ、って感じで刷り続けてみたものの、やっぱりモヤモヤ感が拭えず。
そんな状況下、終了間近となった常設展『畦地梅太郎』展を、はるばる観に来られた料理家Yさん(お料理教室の先生)に突然背後から声をかけられ、驚き固まる。いや、Yさんが展示を観に来るというのは知っていたのだけれど、その時は完全に忘れていて、「見かけたら声かけてねー」とか言っていたくせに、アワアワしてしまった。しかもモヤモヤともしていたので、ちょっと恥ずかしかった。
薬品とインクの臭いで充満する工房まで来て声をかけてくれたYさん、あのタイミングのお陰で随分気分転換出来ました。有り難う。
その後、3時まで飲まず食わずで作業して、完全に集中力がこと切れたので、コンビニおにぎりを一個をお茶で一気に流し込み、私も「畦地梅太郎」展鑑賞。観て良かった。今日はそういう日だったのだ、という事にして、4時には作業終了。
帰る準備をしていたら、隣の席でゴーグルタイプのルーペを使って実に精密な銅版画の彫り作業をしていたご老人(御年80歳くらいだろうか。いつもお見かけする常連さんらしき方)が、試し刷りしたらしい風景画を一目見て、
「ふぉふぉふぉ。ダメですねえ。やり直しですねえ」
と小さく呟いた。
えええ!何処がダメなんですか。私にしたら120%出し切ってる作業とお見受けしますよ。と思わず話しかける。するとご老人は、元になっているスケッチを取り出して、
「このくらいまで黒くしたいんです。こっちはまだまだ明るいでしょう?」
と言う。どこかヨーロッパの国を思わせるその街並の上には、ポッカリと満月が光輝いており、建物の窓からは光が漏れているスケッチと、銅版画を見比べる。
うーん、確かにそう言われると、こっち(銅版画)は白夜って感じで、こっち(スケッチ)は真夜中って感じですね。
「そうでしょう?ダメでしょう?」
いやいやいや、そんなダメだなんて。十分素晴らしいです。
「いや、まだまだですねえ。」
この根気、集中力、忍耐力、飽くなき探究心、自分への厳しさにひれ伏す。横に乾かしてあった私の版画がペラペラに見えて、そそくさと片付ける。ああ、版画って深過ぎる。平日の工房利用者はご高齢の方が多いが、皆本当に根気強い。ひたすら納得行くまで一進一退を繰り返している。とにかくめげない。結果をすぐに求める事もしない。そもそも満足のいく結果なんて出ないかもしれないのだし、そう思うと、みな修行者の様。エライものに手を出してしまった、そう思った。
そんな訳で、グッタグタだったけれど、夜は家人と代々木のビストロに行く事になっていたので、新宿で時間を潰す。しかし、手がインクで汚れていたため(薬品と石鹸で落とすのだけれど、爪の中なんかは簡単には落ちない。触っても害はないのだけれど、見た目がすこぶる汚い)、お店に入ったところで、商品に触れる事を躊躇う。私が店員だったら、絶対に嫌だろうから。花柄に誘われて入ったzuccaでも、店員の目を盗み、素材チェックをし、店員が声をかけてきたらそそくさと去る、という「何かよからぬ事を考えているに違いない客」を計らずも演じてしまった。こんな塩梅だったので、結局何も買えず。
代々木のビストロ『ダルテミス』は初めて行ったけれど、花木だというのに、お客は我々のみ。まあ、6時半から行ってるからそんなものか。ここでも手の汚れをひた隠しつつ(食べ物屋で手が汚いってホント嫌ね)、メインに食べた「ラムのロースト瞬間薫製」が美味しゅうございました。
さて、先ほど阿佐ヶ谷オトノハでランチを食べて(高菜あんかけチャーハンが激しく旨かった)、そのまま阿佐ヶ谷住宅と善福寺川を偵察に(明日、女だらけの花見会なのだ)。阿佐ヶ谷の桜も相当に良いですね。
by sakamotochiaki
| 2008-04-04 16:54
| ◎こんな日々
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