ナンシーとダーガー

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梅雨の晴れ間と、仕事の隙間をついて午前中から渋谷へ行って来た。

センター街の人が行き交う1エリアで、ランダムな様でいて等間隔に、一人か、二人組で立ち止まる人がポツポツと点在していて、「ムッ!異様!」と思ったら、何かの撮影のエキストラが、それぞれの立ち位置で待機中らしかった。センター街で人が立ち止まっているというだけで、こんなに違和感があるとは。殆ど映画『トゥルーマン・ショー』のストップモーションの世界だった。いいもの見た。

開店直後のパルコPART1に入店。一気に6階へ。向かうは『ナンシー関 大ハンコ展』
(http://www.parco-art.com/web/factory/nancy0806/)。
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↓恐ろしくピンボケごめんなさいよ。でも余計にそそるかしら。
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今年七回忌となるナンシーさんの展覧会で、「ハンコ」展というからには、それは沢山の(といっても全作品のごくごく一部だろう)消しゴムの原版が見られるという催し。
印刷物として見た時に想像していた大きさよりもはるかに小さく、精密で、美しく、ひたすら唸らされるばかりだった。版を押す元の原版であるから、当然反転しているのだけれど、それでも即座に「あ!ピン子!」とか「邦衛!」「満里奈!」とわかってしまう凄さ。もはや似顔絵というよりも、その人を、本人以上にその人らしく彫り切っていたのだという事を知る。

ナンシーさんと私は、ざっくりと言えば同郷であり、勝手に近しい気持ちでいるのだが、実は彼女の書籍を手にし、ちゃんと読み出したのは既に亡くなった後だった。これはナンシーさんに限った事ではなく、元々活字が苦手な私が、義務感とか、必要に迫られてとか、見栄以外で、自ら本というものを手に取って読み出したのはここ3〜4年の話であるためだ。元々いつでも手に取れる場所にあったにも関わらず、読めば絶対好きである事もわかっていたにも関わらず、そんな訳で私のナンシーデビューは甚だしく遅い。そして、その遅さを自覚した時には彼女はこの世からいなくなっていた。

しかし、それでも彼女の数々の作品と書籍は残り、私はそれを読む事が出来る。今後、新しいナンシー節を読み、消しゴムハンコを拝む事が出来ないのは悲しいけれど、手に取れる作品らは未だに色褪せる事無く、むしろ輝いている。ナンシーさんは他の誰とも違う、誰にも真似できない真骨頂を築き上げた。ナンシーさんがいなくなって7年経っても、誰も到達できない領域を、なまじっか「風」を気取った者は大怪我必至のハイリスクな世界を。

安斉肇さんが「ナンシー関を風化させてはならない」と言っておられたそうだけれど、風化しようもない圧倒的な世界だった。そして、会場で流されている映像の中で、ナンシーさんにゆかりのある人々が口を揃えて言っていた様に「今ナンシーが生きていたら、どんな風に言うだろう」「ナンシーが生きていたら、今の様な緊張感の無いテレビにはならなかったのでは」と、思ってみても仕方が無い事を、やはり考えてしまう。ナンシーさんの死はテレビ業界にとって、芸能人達にとって本当に不幸な事だったのだと。痛烈な辛口批評も批判も、全て大きな愛故のものであり、そういう愛のある批評を出来る人が今、どれだけいるだろうか。吉田豪さんくらいしか思い浮かばない。
いとうせいこう曰く「テレビ業界はナンシー前、ナンシー後と分けられる」との事だったけれど、そうかもしれない。そんなナンシー期真っただ中の作品群を、どうぞ皆様観に行きましょう。もし、ナンシーさんの書籍を未読だという人が居たら、まあ、焦る事も無いけれど、読んだらいいと思います。読む前と読んだ後ではテレビの見方が変わる。或は見えなかったものが見えてくるかもしれない。そして今のテレビのヌルさを一層憂う事になるだろう。

会場のそこかしこで「クスクス」と笑い声が聞こえる、でも心がしんみりする良い展覧会だった。あ、ハンコはタモさんの数がダントツ多かった様に思う。あと馬場。

ナンシー展を観終えたら、目の前のシネマライズXで『非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎』(http://henry-darger.com/)をまだやっていたので観る事に。
いやーあの世界がアニメになるとはね。しかも今どきのCGCGした感じではなく、あくまでアナログ風に見せていて、動きもぎこちなく(モンティパイソンのアニメを彷彿)、ダーガーの魅力を一層増していて、色もホントにきれいだった。
↓こういうのが動くのだ。
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誰からも知られずに描きためられた膨大な作品達は、彼の死後注目され、今やこんな映画にもなり、さぞや彼が生きていたら驚く事だろう。けれど、彼にとってはこれが幸せな事だったのかどうかは全くわからない。古いアパートの一室で、寝る間も惜しんで(彼はずっと椅子で寝ていたという)、自分だけの世界を作り続け、その中で生きる事を望んでいたのだから。と、思う一方で、これらの素晴らしい作品が、誰の目にも触れるこの無く処分されてしまう事もやはり不幸だとは思うのだった。私も観る事が出来なかった訳だしなあ。複雑だ。
映画鑑賞後、以前原美術館開催されたダーガー展を今一度観たくなった。あの日観た時よりも、もっともっと感じ入る事がありそうな気がした。
こちらも20日までとなっております。小さい映画館なのに、今日は私を含む3人のみでガッラガラだったが、興味のある方はぜし。
予告編↓(ナレーションはダコタ・ファニング。コンチクショウかわいいぜ。)
http://jp.youtube.com/watch?v=y_cIjMLCAuU&feature=related

計らずも、今は亡き偉大なアーティスト2人(しかも両者とも部屋に籠り、ひたすらコツコツと創り上げていた)のハシゴをする結果となった良き日。
この後、飛び込みでカイロに行こうかと思っていたけれど、ちと無理みたい。ああ、首が痛いなあ。
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by sakamotochiaki | 2008-06-06 17:22 | ◎こんな日々 | Comments(0)