一騎打ちに立ち会う

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梅雨が明けたかと思わせるピーカン晴れの中、一人、谷中に行って来た。

田中泯さんの場踊りを観たいがために、昨日一日仕事して、今朝も早起きして金策ならぬ時策。経済誌でも長くお仕事をさせて頂きながら、私、金策はとんと上手くなりませなんだが、時間を作る事には少々自信あり。結果、出かける前にカイロに行けてしまう程に。泯さんの踊りを観るために、己の身体のコリまでほぐしてしまった。

さて、この「場踊り」は、期間中、泯さんが踊る「場」が毎日変わるというものなのだが、本日の「場」は谷中霊園の中にある「五重塔跡」だった。一度焼失した五重塔を1791年に再建したものの、1957年7月6日、無理心中放火事件で再び焼失してしまったそうで、日付的にもちょうど51年前という事になろうか。
そんな場所で泯さんが即興で踊り、それを写真家の荒木経惟氏が撮る、しかも公開撮影という催し。情報を得た一昨日から、それは観ないでか。と鼻息荒げた訳です。

土地勘が全くないため、まずは五重塔跡を位置確認。
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1時間前の段階では、まだ人もまばら(というか、催しとは関係ない一般の方々ばかり)だった。
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猫とかね。
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ここに昔、五重塔があったという痕跡を、木々の濃い緑と、そこから漏れる光が取り囲んで、独特の湿度と雰囲気があった。「ここで泯さんが踊るのか。それを観られるのか。」と、一気に緊張し始める。いやー困った。いやいや、嬉しい。嬉し過ぎて困った!と興奮しつつ、主催であるSCAI THE BATHHOUSEへ。
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元は銭湯だったという素敵な建物。こちらでは、これまでの泯さんの踊りの映像や、前日の場踊りの録画映像も見られるとの事だった。

で、到着するなり、さらに興奮。
入り口脇の花壇に、泯さんが甚平姿で座っておられたのだ。が、正確には視界の端っこに「あ、泯さんだ」と捉えただけで、緊張のあまりそれ以上目視出来ず。カティンコティンになって、一礼の様な動作をした様な気もしないではないけれど、よくわからない。完全に舞い上がってしまい、そそくさと入場。
暑さとは別に吹き出る嫌な汗を拭いつつ、しばし映像を見入る。ああ、これを生で観られるんだ。どうしよう。嬉しい。やっぱり嬉し過ぎて困る。困り果てる。文字通り、嬉し過ぎて困ったあげく果ててしまいそう。
コレ、もう今月の自分の誕生日プレゼントにしよう。そうしよう。おめでとう私。ありがとう私。と、自分にドードー。
興奮ついでに財布も緩み、泯さんが作っておられる桃花村の無農薬新茶を3つもお買い上げ。

場踊り開始30分前、再び五重塔跡へ。
人がちらほらと増えていた。
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何となく砂場前のベンチに陣取る。陣取るなりヤブ蚊に刺される。2箇所も。友人Kの体験(以前、山梨の山の中で泯さんの踊りを観た際、蚊に刺されまくって集中出来なかったというもの)には程遠いが、こんな事もあろうかと虫除けとウナクール(もろこしヘッド)持参の私であった。こちとら何処までも万全の体制なんである。

開始時間間近になると観客もかなり増え、泯さんも「場」入り。
その後、関係ない団体観光客が五重塔跡を観るためにゾロゾロと公園内に入ってきたと思ったら、その最後尾に、しれっと荒木さんがくっついて入場。これには笑いをこらえるのが大変だった。到着するなり、辺りに響き渡る荒木さんの陽気な声が何ともパワフルで、ベンチに座り泯さんとずっとお話をされていた。すでに予定の時間は近づいているけれど、二人ともこれといった準備をする気配もない。
と、おもむろに泯さんが立ち上がり、五重塔跡の方に歩き出した。
おっ、という感じで荒木さんも続く。唐突な静かな始まりに息を飲む。つい30秒前まで、ベンチで「ワハハ」と話していた二人のオッサンが、扉を開ける様にさらりと、瞬間的に、強靭なアーティストに変わる様を見た。

それからはただもうひたすら食い入る様に見続けた。泯さんの全身全霊の表現を、なるべく取りこぼさない様に、こちらも目に耳に焼き付けようと必至。
あの場にある何かを聞き、捉え、感じた事を、自分の身体で表現するという事は、どういう事なのか、ただひたすら見た。
余計なものがそぎ落とされた泯さんの身体とは、少しアンバランスに見えるぼってりと厚みのある足の甲、以前映画『ウミヒコヤマヒコマイヒコ』を観たときもそう思った事を思い出した。農作業で培われた厚みなのかもしれない。
泯さんの動きに呼応する荒木さんのシャッター音。ビンと張る真っ赤なサスペンダーが、瞬間を捉えようと、私の目の前を上下左右に素早く動く。荒木さんの腕は、私の父の腕に似ていた。白くてぽちゃっとしている。けれど、それは瞬発力とエネルギーの固まりだった。

屋外であるという事で、期待していたミラクル(?)も起こった。
泯さんの踊りに反応したかの様に、鳩が一斉に飛び立ったり、雀が舞い降りて盛んにさえずったり、通りがかりのオッサンが、すぐ横の水道で「がらがらがらおえええあっ」とやったり、卒塔婆を持っているオバハン(墓参り途中?)がジッと見入っていたり。泯さんが寄りかかった木に、羽織っていた薄手の上着が引っかかった時は、まるでそれが元々の演出だったかの様で、そのまま上着を脱ぎ捨てた泯さんは、また別の泯さんになっていた。
場踊りを中心に、丸く人だかりが出来ていたので、必然的に向かい側に居る人の顔が見えるのだけれど、女の子が思い切り口をパッカーと開けていたが、あれは開く。仕方ない。

こんな風に書くと、全然踊りに集中出来ていないみたいだけれど違うのである。あれだけ大勢の人が周りにいて、色々な物音がしていて、確かにそれはより鮮明に感じ取れたのだけれど、突然、泯さんしか見えなくなる瞬間があるのだ。この場所に、私と泯さんしかいない様な感覚。ハッと我に返ると、目に涙が溜まっていた。踊りの終盤、と言っても、いつ終わるかはわからないので、それが終盤とはわからなかった訳だけれど、恐らく踊りのクライマックスを感じ取ったのだろう、感極まってついに涙が垂れた。自分でも訳がわからずビックリして、やべ!お向かいの口をパッカー女子からは丸見えだ!と気づいたら、むぬ凄く恥ずかしかった。けれど、これも仕方なかった。

私のすぐ目の前の砂場に入り、転がる様に踊っていた泯さんが、ふいに「ニイッ」と、顔をシワシワにして笑い、荒木さんを見た。それが踊りが終わった合図だった。
また、陽気な荒木さんの声が響き渡り、泯さんも元に戻っていた。

男の、いや、ギラついたオッサン二人の一騎打ちは、下手な格闘技を見るより、よっぽど鬼気迫るものがあった。そんなガチ対決の立会人の様な、不思議な気分を味わえて大変満足。しばらくその場を立ち去り難く、用もないのに右往左往してしまった。行って良かった。 本当に良かった。

その後、来た道で帰る気にもなれず、気を鎮めるために千駄木まで歩いて、またまたパリットフワットで山盛りパンをお買い上げ。えげつない色合いが気に入っていた「クレヨン」がえらくマイルドな色合いになっていて、まだ興奮冷めやらぬ私に「ドードー」と言っている様だった。


オマケの谷中写真。
花重。
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花輪を撮影する花重の女の子。暑過ぎて色が変わっちゃうよと店長のオッサンが心配してた。
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奥の緑は谷中霊園。
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※当然ながら、場踊りの最中は写真撮影禁止でしたので、写真はありません。


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by sakamotochiaki | 2008-07-05 22:41 | ◎こんな日々 | Comments(0)